もう15年ほど前のことになる。母と二人で、イタリアへ旅行した。
母とは数年に1度のペースで旅行に出掛けるが、初めて2人でバリ島に出掛けてからは海外旅行にも自信がついたようで、イタリアは3カ国目でした。ただ私は母と普段一緒には暮らしていないのでどれくらいの歩行ができるのか、母の体力がどれほどのものなのかきちんと分かっていなかった。
当時の母はまだ杖を使ってはいなかったけれど、長距離を歩くのはすでにしんどそうだった。イタリアといえば石畳の街並みが魅力のひとつだけれど、あの独特の凸凹した石の道と、あちこちにある古い階段は、足の弱った母にとってはなかなかの難所だった。ローマもフィレンツェも、美しい旧市街ほど坂や階段が多く、平坂な道はむしろ少ないくらいだった。
それでも旅を楽しめたのは、ツアー旅行を選んでいたおかげだと思う。同じツアーの他の旅行者の方々が、母のペースに気づいて自然と声をかけてくれた。「大丈夫ですか」「ゆっくりで平気ですよ」と、急かすことなく歩調を合わせてくれる人ばかりで、母もずいぶん気が楽そうだった。知らない者同士でも、旅先では思いやりが生まれるのだと実感した旅でもあった。
移動面でありがたかったのは、ガイド付きツアーだったので基本的に貸切バスで移動できたことだ。自力で公共交通機関を乗り継ぐ必要がなく、バスが目的地のすぐ近くまで連れて行ってくれるので、母の体力を歩く場面に集中して使うことができた。もし個人旅行であちこち電車やバスを乗り継いでいたら、移動だけでかなり消耗していたと思う。
一方で、反省点もある。旅行を決める前に、旅行会社やツアー会社に「足の不自由な同行者がいる」ことを事前に問い合わせておくべきだった。実際には行ってから「ここは階段しかない」「この時間は自由行動なので各自で」という場面もいくつかあり、その都度周りの厚意に助けられる形になった。今思えば、事前に相談していれば、コースの一部を調整してもらえたり、対応をあらかじめ知ったうえで心構えができたりしたはずだ。
この経験から伝えたいこと
これから足の不自由なご家族と旅行を考えている方に、伝えたいことが三つある。
一つ目は、ツアー旅行、それも貸切バス移動があるツアーは想像以上に負担を減らしてくれるということ。
二つ目は、周囲の旅行者の善意に助けられる場面は意外と多く、一人で抱え込みすぎなくていいということ。
三つ目は、申し込み前に「歩行に不安がある」ことを旅行会社に伝えておくと、当日困る場面を減らせるということだ。
石畳の坂道を、母のペースでゆっくり登った記憶は、効率よく観光地を巡った旅よりもずっと心に残っている。次にどこかへ行くときも、あの旅で学んだことを活かしたい。
